消費者目線での投資

General Partnerの源による記事です。
15th Rock Venturesが発行するNews letterから一部抜粋しています。弊社ニュースレターのご希望の方は、こちらよりご登録ください!

最近、中島と雑談をしていて「源さんって、BtoCへの投資が得意だよね。」と言われました。自分では特に意識をしていなかったのですが、確かに前職を含むこれまでのトラックレコードではExit8件のうち、7件がBtoCのサービス・製品を展開しているスタートアップでした。

それで、今回はBtoC向けのビジネスを展開している企業の魅力、投資するにあたって留意していることについて、書きたいと思います。

C向けのスタートアップを好む理由

私は現地現物というトヨタ用語が好きなのですが、C向けのサービスだと投資検討の際に消費者として、実際にサービスや製品の良さをとことん試せるということがあります。

例えば以前スマホゲームへの投資を何件も実行していたのですが、UI/UXをプレイしてみて確認するのはもちろん、実際課金してみてそのタイミングや額等が心地良いか、不快感を感じないかということを納得いくまで試していました。

また上記に加えて、将来社会がこうなったら良いなという願望をダイレクトに反映しやすいということもあると思います。

これも10年ほど前の話ですが、当時はまだサラリーマンの副業が一般的ではなく、所属企業でしか自分の能力を発揮できないというのが主流の社会体制でした。当時の私は、人間には会社人としてのスキル以外に様々な側面・スキルがあるのに、なぜそれを十分に発揮できる場所がないのかと、すごく不満に思っていました。その際に、スキルシェアのプラットフォームを展開するココナラという会社に出会い、彼らが描いた「一人ひとりが自分のストーリを生きる」という世界観に共感し、投資を決めました。

B向けのスタートアップへの投資に難しさを感じるのは

一方でBtoB向けの投資が少し難しいなと感じるのは、B向けサービスは必ずしも合理的な理由でビジネス行動がとられないことが散見され、その行動原理を理解するために、投資前に当該業界の商慣習や準拠法、ルール等々に習熟しているべきだからです。

以前B向けサービスに投資をした失敗例では、スマホゲームに特化しMBaaS(Mobile Backend as a Service)という、サーバーサイドの開発項目(ゲーム横断で共通機能が多くそれだけでは差別化が難しい項目)をクラウドで丸ごと提供する会社に投資をしました。理論的には、ゲーム開発会社の開発工数が半分程度になるし、当時スマホゲーム市場が倍々で伸びていたので、必ずこれはうまく行くだろうと思っていました。ただ実際は全くの鳴かず飛ばずで、最終的には会社を精算してしまいました。

失敗の原因は色々とあるのですが、最大の理由は、ゲーム開発会社のエンジニアはサーバーサイドも自社で開発したがる傾向が強いということです。ゲーム開発はあらゆるソフトウェア開発で最もレベルが高いものの一つで、それに伴いサーバーサイドも自社で開発し自由にカスタマイズしたい傾向が強いというのが終盤でわかってきたことでした。

C向けの投資で留意している点は

自分が好きすぎる、習熟し過ぎているサービス・製品には投資をしないことにしています。お酒が飲めない人の方が、酒屋の経営がうまくいくと聞きますが、感覚的にはそれに近いかもしれません。

キャズム理論では消費者層をイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティー、ラガードと区別し、新商品・サービスはこの順番で浸透していくと捉えています。アーリーマジョリティとレイトマジョリティーの間にキャズム(深い溝)があり、ここを越えるのが最も難しいというのが理論の概要です。

アーリーアダプターの定義は流行に敏感なオピニオンリーダーで、新商品の「新しさ」だけでなくディテール、メリットにも関心を持って購入を決めます。魅力を感じた新商品の良さを拡散するインフルエンサーでもあります。アーリーマジョリティの定義は情報感度は高いものの、新しいものには比較的慎重な現実主義者で、流行に乗り遅れたくない気持ちがある一方で、現実主義者のため、新商品の技術、合理性や実利にも目を向けて購入を決めます。

自分が好きすぎる、習熟し過ぎているサービス・製品とは、言い換えると、当該市場において自分の消費行動がイノベーター、アーリーアダプターである可能性が高く、ポジティブなバイアスがかかり、実際は永遠にキャズムを超えない小さな市場かもしれないのに、投資家としてその潜在市場を大きく見積りすぎる危険性が高いと考えるからです。